…????』
『そっ?』 大正解だ。
『…今何時ぃ??』
『昼3時だよ~ん?』
3時?! やばい!学校…
??は美嘉の焦った様子に気付いたのか、 笑いながら言った。
『今日は休日で学校は休み~?』 安心して
胸を撫でおろす。
『びっくりぃ~!!』
『今どこにいる~!?会えない?』
今?? 今…
優の家だった!!
いつもと違う部屋の景色でやっと気付く。 同時に昨日の出来事を思い出し照れくさい
気持ちになった。
『今…優さんちぃ…』 受話器を手で覆いながら小声で答える。
『マジ~?!泊まり?いろいろ話聞きたい?
あたしも話あるし?夜話せる?!』
『じゃあ夜電話する!!』 電話を切り隣をちらっと見てみると、
まだ寝ていると思っていた優がこっちをじ っと見ている。
「電話うるさかった??ごめん~!!」 両手をくっつけて謝る美嘉に
優はあどけない笑顔を見せた。
「起きてたで?美嘉のかわいい寝顔見とっ た。ヨダレ垂れてたで!」
見とれてしまう…。 しかしすぐに言葉を思い返し、 昨日と同じようにほっぺを膨らませて優の 頭をポカポカ叩いた。
「ヨダレなんて垂らしてないしっ!!」
優にとって美嘉は妹みたいな存在だよね。 だから
期待はしないの。
優がそんな男だとは思ってないけど… 昨日の出来事は優にとって一時の過ちだっ たのかもしれない。
優とはこの先もずっと今みたいに友達でい れたら充分だから…。
「まだ 帰りたくないなぁ……」
優がシャワーに入っている間、 テーブルに肘をついきテレビを見ながら深 いため息をついた。
シャワーから出て来た優はタオルで髪を拭 きながら近付き、 ニュース番組に夢中になっている美嘉の背 後から顔を覗かせた。
「今日まだ時間ある?」
「え…大丈夫っ!!」
まだ帰りたくなかった美嘉にとっては 待ちわびていた言葉。
優の濡れた髪先からポタリと落ちる雫が ひんやりと冷たい。
「じゃあどっか行くで」 シャワーを借り、
まだ濡れた髪のまま制服に着替えた。
「髪濡れとるやん!」
「自然乾燥~!!」 洗面所からドライヤーを持って来て、
美嘉の頭にドライヤーをあて髪を乾かす 優。
さりげないお兄ちゃんみたいな行動、 実は結構好きだったりもする。
髪が乾き、 軽くメイクを終え部屋を出た。
「おじゃましました?」 車に向かう途中、
優は車の鍵を指でくるくると回している。
「優さんってよく車の鍵回してるよね っ!!」
「俺緊張したらよくやっちゃうねん。癖!」
「えっ、じゃあクリスマスパーティーの時 緊張してたの!?!?」
「俺、あん時も鍵回しとった?」
優は鍵を回す手を止め、照れた表情を見せ る。
「回してたぁ。緊張してたんだぁ!!」
「俺、シャイやからな!それより制服ほん まにそそられるな~お兄ちゃんやばい わ~!」
「変態親父~!!」 こんな会話をしながら
助手席に乗り込んだ。
でも… でも一つ疑問に思っていることがある。
なんでさっき 車の鍵回してたの?
緊張してるの…??
シートベルトを締め、 持っていたカバンを足元に置いた。
「さぁお姫様、どこ行きますか~?」
「海!海行きたい!!」 即答。
大好きな
…大好きな海に行きたい!!
「なんでこんな時期に海やねん!まぁ、お 姫様のわがまま聞いたるわ!美嘉は海から みる夕日好きやもんな~」
車は 海へ向かって走る。
途中優が煙草を買いたいと言うので スーパーに寄った。
車の中で優が戻って来るのを待つ。
「お待たせ。出発するで~ちょうど夕日が 出てる時間やな!」
海に到着。 さすがにこの季節にもなると誰もいない。
「貸し切りだあぁ!!」 靴とルーズソックスを脱ぎ海に向かって走
った。
夕日が沈むまでは あと少し。
そーっと足を 水に近づける。
「水冷たっ!!」 優も靴を脱ぎ
ズボンを軽く捲くりあげて水に入った。
「これはやばいわ~でも気持ちいいな!」 渋い顔をしている優に軽く水しぶきをかけ
る。
優もそれに対抗してか水しぶきをかけてき た。
「ちょっ…冷た~い!!ってか口に入ってし ょっぱ~い!!」
「美嘉からやったんやろ~。ざまあみ ろ~!」
周りから見ればこんな季節に海に入って、 変な目で見られるかもしれない。
でも、楽しかった。 今が楽しけりゃそれでいいと思うんだ。 周りの目なんて関係ないよ!!
潮のせいで 白く色づいた制服。
気が付けば夕日が眩しく二人を照らしてい る…。
砂浜に腰を降ろすと 優は煙草に火を着け音をたてて煙を吐き出 した。
「妹…やもんなぁ~」 優に言葉を返す。
「優は~お兄ちゃんだもんねぇ!!」 優はまっすぐ向いたまま再び煙草を加え
る。
夕日に照らされた優の横顔があまりに綺麗 で、
目をそらさずにはいられなかった。
「最初は妹みたいやと思ってたのになぁ…」 優の言葉が
理解できなかった。
ただいつもと違う雰囲気だということは感 じる。
胸の鼓動が高鳴る…。
「…どしたの??」
優は携帯灰皿に煙草を押し付けて火を消し 真っ直ぐ遠くを見つめたまま立ち上がっ た。
「待っててな」 頭をくしゃっと撫で
車のほうへと歩いて行く優の背中を見つめ いつもと違う様子に疑問をもった。
今にも沈みそうな夕日を見つめていると、 後ろから近づく足音。
この足音は優だとわかっているはずなの に、
振り向けない…。
優は美嘉のすぐ後ろで足を止め、 その場に腰を降ろした。
「プレゼントやで!」 優が差し出したのは、
両手では持ち切れないほどのかすみ草。
優は再び立ち上がり、 遠くに向かって叫んだ。
「俺~、 美嘉の事好きやー!」
思い出したのは、 昨日酔った時に言った言葉…。
【告白されるなら、プレゼントにたくさん のかすみ草を貰った後に、大きい声で叫ん で告白された~い!!】
…こんなの、 その場で思いついた嘘だよ…
優だって男が花束買うのは恥ずかしいって 言ってたじゃん。
本当にするなんて 思っていなかったよ…。
「こんな感じやろか?」
照れくさそうな優。 美嘉はうつむき、
涙をこらえて笑いながら答えた。
「バカぁ…あんなの冗談で言ったんだよ っ…」
優はその場に もう一度座り込む。
「ほんまに?俺、かっこわるいやんな…」
顔を上げて優の顔を見るとほんのり赤くな っているように見えた。
夕日があたっているせいかな。 でもきっと
それだけではない。
「……でも嬉しいよ」 優に聞こえるか聞こえないかくらいの小声
で 呟いた。
かすみ草をプレゼントされて大声で告白。 すごく
嬉しかった。
昨日言った思いつきの嘘は真実へと変わ る。
「俺本気やから」 優は美嘉の向かいに座り髪を優しく撫で
る。
思い出すのは やっぱりヒロの顔…。
「でも美嘉ね、まだ元彼を…」
「それでもええねん。俺が忘れさせたるか ら」
優は美嘉の言葉を最後まで聞かずに遮っ た。
それでも半泣き状態のまま話し続ける。
「いろんな過去聞いて…嫌にならなかった の?美嘉汚れてるよ??」
「美嘉は汚れてへん。俺全部受け止める自 信あるから。俺が美嘉を幸せにしてやりた いねん」
「優さんと元彼、比べちゃうかもしれない よ?そんなの嫌でしょ…??」
声にならない。 優は少し寂しそうに笑って答えた。
「そんなんわかっとる。俺、元彼の代わり でもええよ。でもいつか越えてみせるから… 元彼のことずっと忘れられへんかったら振 ってもかまへん」
優は 本当にそれでいいの? 辛くないのかな…。
優は何も言えずに黙り込む美嘉の肩を引 き、
自分の胸へと埋めた。
「ほんまに好きやねん。絶対幸せにしたる から俺と付き合って欲しい」
揺れ動く気持ちが、 固まる。 優の胸の中で ゆっくりと頷いた。
今は優の言葉を 信じてみるよ…。
突然立ち上がり裸足のまま海へと走ってく 優。
美嘉も 優の後を追った。
「俺、絶対昔の男に負けへんからなー!」 優が沈む夕日に向かって大声で叫ぶ。
「ほら、美嘉もなんか叫ぶとええよ!スッ キリするで!」
「美嘉は…優を信じてみま~す!!」
夕日にあたった二人はほんのり赤い顔を見 合わせて微笑んだ。
この日から、 美嘉と優の付き合いは始まったんだ。
砂浜に戻り 再び腰を下ろす。
夕日が ちょうど沈んだ。
優は美嘉の後ろに座り、小さい体に 腕を巻きつける。
美嘉は砂浜に置いてあったかすみ草の束を 両手で持ち上げた。
「かすみ草大好き!!」
「なんでかすみ草が好きなん?」 優はかすみ草を
指で突きながら問う。
「かすみ草って脇役じゃん??他の花の引 き立て役。だけどかすみ草があるとね、花 が引き立つんだよっ!!それってすごいじゃ んっ!!」
自慢げな美嘉の話を最後まで聞き終えると 優は口を開いた。
「かすみ草って白くて小さくてなんか美嘉 みたいな花やな!小さいのに一生懸命頑張 ってるしな」
外が暗くて優の表情も見えないせいか、
今ならなんでも聞ける気がした。
「あの…告白、恥ずかしかった??」
優は美嘉のほっぺを ぎゅっとつねる。
「当たり前やん。冗談やったとはやられた な!」
「いたたたた。ごめんなさいぃ…もし美嘉が 海行きたいって言わなかったらどうしてた の??」
「映画行きたいとか言われてたらあせった なぁ~…映画館で叫んどったかもしれへん な!」
「でもあのシチュエーションはずるいよ… 夕日沈む頃に海なんてさぁ…」
改めて思い出すと、 感動がよみがえる。
悲しいわけじゃないのに涙が流れる。 嬉し涙?
感動の涙? 安心の涙?
それともヒロを忘れる 決意の涙…?
優は後ろから 涙を指先で拭き取る。
「強がりかと思えば今度は泣き虫か?」 そう言って笑う優の顔。ヒロとは違う男の
顔。
似てると思っていた頃がまるで嘘のよう に、
面影さえ 感じられなくて…。
優の冷えきった指先を 両手で包み込み温めた。
「あったかい??」
「あったけ~これが幸せってゆうんか な?」