」 今は何も
考えたくない。 だから嘘をつく。
「そうか…さっき玄関で桜井に会った時、あ いつも泣いてたみたいだったからな」
ヒロが泣いてた…? そんなはずないよ。
「まぁ人生いろいろあるからな」
力なく返事をし、 階段を駆け上り教室へと向かった。
教室の前にいるのはヒロ 隣のクラスの???と仲良さげに話をしてい
る。
ヒロはモテるから… だからって教室の前で話さなくてもいいの に。
ヒロはこっちをちらっと見たが、 すぐに目をそらし???と楽しそうに話を続 けた。
涙を堪え下を向いたまま走って教室に入 り、
机に座り顔を伏せた。
左手の薬指につけた指輪を乱暴にはずし、 制服のポケットへと投げ込む。
「どうした?」 背後から声を掛けてきたのは????だ。
「????久しぶりぃ…」 ????は美嘉の顔を
じっと見ている。
「泣いたのか?」
「ヒロと別れたぁ。…ってか振られちゃっ た。ありえないよね!!????は??とどうな の??」
????は一瞬何かを言いたげな顔をしたが
すぐに元の顔に戻した。
「…マジか。俺らはとっくに終わってっか ら。話したりはするけどな」
「そっか……」
「ヒロのこと嫌いにならないでやってな…」 意味ありげな言葉。
今は聞き返す余裕もない
「嫌いになんてならないよぉ。ってかなれ ないから…」
これからはヒロに彼女が出来たとしても、 それを受け止めるしかないんだ。
祝福してあげるのにはたくさん時間がかか るかもしれない。
だけど…
頑張るよ。 応援出来るように 頑張る。
でも今はもう少しだけ好きでいさせてね。 最後の
わがままだから…。
別れてから 次の日だった。
ヒロに 彼女が出来たのは…。
相手は 隣のクラスの???。
だから昨日楽しそうに話をしていたんだ。 ???はずっとヒロのことを狙っていて、
美嘉とヒロが別れたのを知って昨日告白し たらしい。
ヒロはそれに ok の返事をして、 二人は付き合い始めたんだって。
ねぇ、 別れて次の日だよ??
早すぎるよ………。
いつかヒロに彼女が出来たら祝福しようと 思っていた。 だけどあまりに早すぎて心がついていかな い。
その日は授業に集中できるはずもなく、 先生に注意されながらもずっと顔を伏せて いた。
全ての授業が終わり??と校門を出たその時 黒い自転車がビュンと勢いよくすれ違っ た。
前にはヒロ。 そして後ろには???…。
???は美嘉の顔を見て、“羨ましいでしょ” と言わんばかりの顔で笑う。
【俺の自転車の後ろは美嘉の特等席な】 ヒロの言葉が
頭に浮かぶ。
思い出したらダメだね。
自転車が通り過ぎた時風と共に運ばれて来 た香りは、 スカルプチャーではない違う香水の香りだ った。
「忘れなよ!あんな女と付き合う男なんか ロクなやつじゃないよ」
「……だよね」
わかってる。 わかってるんだよ。 でもね
どうしてだろう。
思い出すのは幸せな日々ばかり。
ヒロの笑顔だけ…。 それから毎日学校へは行くものの、
教室に閉じこもる日々が続いた。
だってね、 廊下に出ればヒロと???がいるし……。
その二人を笑顔で見れるほど 吹っ切れてないの。
そこまで大人にはなれないんだ。
???は美嘉に 敵対心を持っている。
美嘉がヒロの 元カノだから…。
誰だって、 大好きな人の元カノを見ると腹が立つよ ね。
???はわざわざ美嘉の教室に来て、 聞こえるような大声で自慢話をする。
「今日弘樹と遊ぶんだ~?」
「昨日弘樹とたくさんキスしたさぁ?」
こんな感じで。 美嘉がまだヒロのことを好きだと
知っていながら…。
それを聞くたびに胸が痛む。 苦しい。
悲しい。
そんな美嘉を見かねて、???が相談に乗って くれた。
やっぱり???は 最高の男友達。
時には優しく時には厳しく 男としての意見を的確に言ってくれる。
教室で??と???に慰めてもらっていたその 時、
廊下から???の声が聞こえた。
「弘樹の元カノもう男出来たんだぁ~早 っ!」
???の横からヒロが顔を覗かせる。 ???を睨みつけるヒロ。 意味がわからないよ。
もう期待させないで…。
その日の夜…
????????????
受信相手を見て
驚きもしなかった。
受信相手はヒロ。 なんとなく
来る予感はしていた。
《ゲンキカ?》 ヒロからのメール、
ずっと待ち望んでたはずなのになんだか苦 しい。
《ウン》 そっけなく返信する。
受信:ヒロ
《ミカオトコデキタ?》
送信:美嘉
《デキテナイ》
受信:ヒロ
《キョウハナシテタオトコハ?》
送信:美嘉
《トモダチ》
《オレアシタデート?》
送信:美嘉
《ヨカッタネ》
受信:ヒロ
《オトコトダケドナ!》
《ダカラシンパイスンナヨ!》
返事をしなかった。 ヒロ自分勝手すぎるよ。振り回さないでよ。 だけど、
それでも少し喜んでいる自分に無性に腹が
立つ。
電話帳からヒロの番号を消すことが出来な い自分の弱さに無性にむしゃくしゃする。
ヒロに彼女が出来て、 諦める決心がついたのに
なのに…。 ある日の朝。
校門の近くで、 ???がいかつい男と歩いてるのを見た。
???は美嘉の姿を見つけると一緒にいたい かつい男に手を振って別れ、 こっちへ歩いて来る。
受信:ヒロ
そして目の前に立ちはだかり、 口に手をあててクスクスと笑った。
「見ちゃった?あれ新しい彼氏。いい男で しょ」
人を馬鹿にしたように 鼻で笑う???。
「へ~良かったね」 ヒロとは
どうなったのか。 気になるけど… 悔しくて聞けない。
???は美嘉の気持ちに気付いたのか ポケットから出したリップクリームを唇に 塗りながら言った。
「弘樹は返す~?」
「……は??」
「まぁあんたはもう無理だろうけどね?」 返す??
もう無理??
???の言葉一つ一つに 反応してしまう。
「弘樹ってクールだと思ってたのに違った みたいな~」
「……で??」
「だから振った~?だって私クールな人の ほうが好きだからぁ~もう返してあげる?」
頭の中で 何かが音をたてて切れた
「………ざけんな」
「え?」
「ふざけんなって言ってんだよ!!」 口から自然に出た言葉。 美嘉の強気な態度に???はア然としている。
「えっ…何そんなにキレてんのぉ」
???は半笑いを浮かべながらも明らかにお びえた顔をしている。
美嘉の怒りは おさまる気配もない。
「ヒロを傷つけんじゃねーよ。あんたにヒ ロの何がわかる??何も知らないくせ に……ふざけんな!!」
手に持っていたかばんを ???の顔に向かって投げつけた。
「痛っ…何すん…」 顔をおさえる???。
それでも怒りは おさまらない。
「ヒロに謝れよ!!ヒロ強そうに見えて傷つ きやすいんだからっ……」
その時、 背後に気配を感じた。
後ろに立っていたのは ????だ。
????は???に顔を近づけ強く睨みつけた。
「お前みてぇなバカでキモい女、一生幸せ になれねーよ!消えろ」
???はまばたきをすることさえ忘れている。
「行くぞ!」 ????は美嘉の手を引き
玄関まで歩き始めた。
「????ごめん…」
「美嘉悪くねーよ。話聞こえたけどあの女 マジキモくね?」
「もう疲れたぁ…」 ????は何かを思い出したように口を開い
た。
「そう言えばヒロが図書室来てだって!」
「……なんで??」
「わかんねぇなんかキレてる感じだったけ ど…」
???と別れたヒロ。
不謹慎ながらも淡い期待を抱いてしまう。 教室には向かわず
直接図書室へ向かった。
息を大きく吐き出し 図書室のドアを開ける。
?????
まっさきに目に入ったのは机に座るヒロの 姿。
こんな状況の中 久しぶりに会うヒロに胸がときめく。
【キレてたっぽかった】 ????の言葉さえも
忘れて…。
「座れ」 ヒロの声だ。
ヒロ会いたかった。 会いたかったよ。
イスに座らずに 冷たい床の上に座った。
ヒロはいらついたように貧乏ゆすりをして いる。
「???に嫌がらせしたんだってな?」
「はい??」 久しぶりの会話なのに、二人の間には重い
空気。
「???から聞いたけどお前???の陰口言って たんだってな?」
「それ逆だし…ってか」 最後まで言い終わらないうちに、
ヒロは言葉を遮った。
「そのせいで俺ら別れたんだけど」
「…どーゆーこと??」
「???がお前に嫌がらせされて辛いから別 れたいって言ってきたんだよ」
「違うよ。???はヒロがイメージと…」
話している途中に 気が付いた。
…やられた。 ハメられた。 あの女に。
「お前のせいで俺ら別れたんだよ」
「ヒロのバカ。もういいよ………」 図書室を出ようと
ドアに手をかけた時…
「どーしてくれんだよ」 腕をぐいっと掴まれ、
図書室にはヒロの声が響き渡った。
「………離して」 その手を強く
振り払う。
「……一生あの女に騙されてれば?!バカ っ」
強引にドアをあけ 図書室を出て教室まで全速力で走った。
???は男をコロコロ変えるタイプで ヒロと付き合い始めた時もう一人彼氏がい た。
二股していたのだ。 その相手が朝一緒に歩いてたいかつい男。 ???はヒロが見た目のイメージとちょっと
違ったからって、
ヒロに別れを告げてもう一人の男を選ん だ。
しかし別れる理由が見つからなく 嫌いだった美嘉に嫌がらせされたという理 由でヒロに別れを告げた…。
二股をしていたうえ美嘉のせいにしてヒロ に別れを告げた???は最低な女。
でも???を信じて美嘉の話を聞こうともせ ず信じてくれなかったヒロの方が最低な男 だよ。
久しぶりに会えて嬉しかったのに。 もしかしたらまた前みたいに戻れるかもっ て思ったのに。
この日をきっかけに、 美嘉は変わり始めた。
ヒロと???はそれから 本当に別れてしまったみたいだ。
…当たり前か。
そんなことは もう関係ない。
phs から