美嘉はその言葉に腰を降ろし、 声を出さずに何度もうなずいた。
??ちゃんは周りをキョロキョロと見渡し人 がいないことを確認すると、
カバンにはいってるペットボトルのジュー スを一口飲んで話し始めた。
「あいつ大学に入学したばっかりの時バイ ト先の 6 つ上の女と付き合ってたんだ。」
「6 つ上?!」
「そう。
優が 19 才で女が 25 才。 しかもその女結婚もしてて 3 才の子供もい た。
優もそれ知ってた」
「…じゃあ不倫??」
「まぁ世間一般ではそう言うよな。
でもその女も旦那より優のほうが好きだっ たみたい。
俺よく相談のってたし…なんか旦那がすご い酒乱だったって。」
非現実的な話。 ドラマでしか聞いたことのない言葉。
??ちゃんは続ける。
「子供も優にすげぇ懐いてたんだ。
それである日優が女と会ってる時に女の携 帯に警察から電話来たんだって
“旦那が酒飲んで駅で暴れてたから保護し てる”って。」
「うん…」
「それで女が警察に行こうとした時、 優は“行くな”って言って止めたんだって。
そしたら女はそのまま迎えには行かなかっ たらしいんだ」
返事が見つからない。 ??ちゃんの言葉を ひたすら待っている。
「それが原因でその女は旦那と離婚するこ とになって、
優に懐いてた子供も“お前のせいでお父さ んとお母さんが別れたんだ”ってすごい泣 いたらしくて…そんでそのまま別れたって 俺は聞いた」
ショックなのか 悲しいのか。
よくわからないけど
あまりの衝撃に息をすることさえ忘れてし まう。
「あいつなんであの時…女の携帯に警察か ら電話来た時、
“行くな”って止めたんだろうってすごい 後悔してんだ。
好きな人の幸せのために背中押してやれな かったってかなり悔やんでた」
好きな人が幸せになるために背中押す。 それが正解なのかな。
優のしたことは 間違ってないよ。
好きな人が他の人のところへ行こうとして るんだもん。
行かないでって思うのが当たり前じゃん。
前に????が
「どんな人がタイプ?」
って優に聞いた時、
「年下。でも付き合った人は年上!」 って答えた時あったよね
あの時、
一瞬寂しそうな顔をした理由が、今わかっ た。
優の親も離婚して、 傷ついたから…
自分のせいで離婚して子供が泣いてる姿を 見た時は、
辛かったよね。
優は人の笑顔を見るのが好きだもん。
もしかして保育士になりたいって言ってた のは
まだ引きずってるからなの??
自分のせいで好きな人の子供傷つけちゃっ たから…
だから子供の笑顔が見たいから保育士にな りたいの??
美嘉は一点を見つめたまま、 放心状態になっていた。
「…嘉~美嘉~?」 ??ちゃんに呼ばれる声で意識を取り戻す。
「…あ、ごめんごめん!そっかそっか~そん なことがあったんだぁ!!」
落ち込んでるのを知られたくなくて、 わざと明るく振る舞っている。
??ちゃんはそれに気付いたか気付いてない かはわからないが、
再びペットボトルのジュースを飲みながら 話し始めた。
「でも優、美嘉に出会ってからマジで楽し そうだよ。だから俺安心してるしこれから も優をよろしくな!」
そう言い残して、 去って行く??ちゃん。
初めて聞いた優の過去。 美嘉はアルバイト情報誌を握りしめ、
走って家に帰った。
送信:優
《今日うち来れる??》
無性に優に会いたくなりその衝動でメール を送ってしまった。
受信:優
《遊べるで?次の授業終わったら行くわ!》
テレビもつけず、
何もしないでただベッドに座り優を待ち続 ける。
別に怒ったりしてるわけじゃない。
ただなんとなく今すぐに優に会いたいん だ。
待っている時間はすごく長く感じた。 ピンポーン
チャイムの音。
別に急ぐ必要もないのに玄関に向かって走 る。
ドアについてる小さい覗き穴を覗いてみた が、
真っ暗だ。
おそらく優が指で隠しているのだろう。 半年も付き合えば、
優がどんなイタズラをするかなんてだいた いは予想出来る。
鍵を開け、 ドアをゆっくりと開いた
「美~嘉~~?」 ドアを開けた瞬間に
美嘉に飛び付いて来る優
「あははっ!!びっくりしたぁ!!」 悩んでいるのをバレないよう、
いつも通りに接した。
「美嘉どうしたん? なんかあったか?」
…優には隠し事できないなぁ。
でも優の過去で悩んでるなんて言えない し。
「バイトのことで悩んでただけぇ!!」
「ならええけどな」 優は頭をポンッと叩き、部屋に上がった。
「部屋かなり片付いたしょっ!?」
「そうやな~よく頑張ったな。ごほうびや
?」
優は美嘉の唇にキスし、そのまま美嘉のひ ざに寝転んだ。
「優の甘えん坊!!」
「美嘉には負けるわ!今日小テストあって、 俺寝てへんね…ん」
優はそのまま美嘉のひざの上ですやすやと 気持ちよさそうに寝てしまった
ひざの上で子供のような顔をして寝ている 優。
微笑ましい光景。 ほっぺを指先でつんつんと突いてみた。
優…。
??ちゃんから優には言わないでって約束し たから直接聞いたりはしないけど、
どうして何も話してくれないの?? 美嘉じゃ頼りにならないかなぁ??
美嘉は今までたくさんのことを優に話して 来たのに…
優は何も話してくれないんだね。
強がりなのはどっちだよっ!! いつも笑ってるけど、
本当は辛い時もあったんでしょ??
過去についた傷が今も痛んで、 頼る人がいなくて、 一人で泣いた夜もあったでしょ??
そんな時、
美嘉に電話かけようと受話器握った日は何 回あった??
ずっとずっと、 一人で抱えてたのは優じゃん…。
過去の話聞いても怒ったりはしないのに。 優の心に負った深い深い傷をキレイに治し
てあげる力は美嘉にはまだないかもしれな い。
だけど、
ちょっとくらい忘れさせることぐらいなら できるから…。
ねぇ、 そうだよね?
もっと頼ってよ。
優…
優が今まで抱えてきた辛さに気付いてあげ られなかった自分の不甲斐なさと…
優が負った傷の深さを考えると、 涙が溢れ出た。
その涙は頬を伝わり、
優のほっぺにポツンと落ちる。
急いで涙を拭いたが、 優はほっぺに落ちた美嘉の涙に気が付き、
横になったまま美嘉のまぶたに指をなぞっ た。
「泣いとるん…?」
「泣いてないよ…」 泣いてるよ!!
優のせいだよ。
辛さを隠してるくせに… 相談してくれないのが悲しいの。
優は体を起こし、 ほっぺをつねった。
「泣いとるやん。 美嘉の強がり」
強がり… それ自分じゃん。
「どっちがだよぉ…」 美嘉は優に抱き付き、
優の体をポカポカと叩いた。
「優の…優のバカァ!!バカバカバカバカ」 何も気付かなかった自分へのいらだちや、
何も話してくれなかった優への怒り。
優が背負った傷の悲しみや、 優が美嘉のそばにいてくれてる安心感。
いろんな気持ちが混ざり合い、 複雑な涙だった。
優は何も聞かず、
ただずっと泣いている美嘉をやさしく抱き 寄せ、涙を拭いてくれた。
第十七章 青春
大学生になってから二ヶ月が経った。
そろそろ通帳の残高が危うい…。
本当は三ヶ月くらいは生活できる予定だっ たが、入学当時はサークルの新観コンパな どが毎日のようにあり、 思ったより支出が多かったのだ。
バイトをしようとアルバイト情報誌を買っ たりもしたが、
結局読むだけで決めることができずにい た。
でもさすがにやばい…。 バイト探さなきゃ!!
せっぱつまった状況でコンビニにアルバイ ト情報誌を買いに行く。
今日は授業があるけど、今はそれどころじ ゃないからサボろ~っと。
実は理由をつけながら授業をサボれるの が、
ちょっと嬉しかったりもする。
…まぁそんなこと今はどうでもいいけど。
引越しから二ヶ月が経ち もう部屋の片付けは完璧に終わった。
ふわふわの白いソファーに横になりテーブ ルにあったポッキーを口にくわえながらア ルバイト情報誌を読む。
「やっぱ時給高いとこがいいよね~?それ に~あまり大変なのは嫌だな…って贅沢言 ってる場合じゃないし!!」
一人で突っ込みを入れながらも、 真面目に探していた。
その時、 目に入った一つのアルバイト情報。
“歯科助手
18~25 歳 週三回~応相談 休日?日曜、祝日 時給 800~ 資格が無い人でも 大丈夫です。 電話連絡の上、 履歴書持参。
バイバイ歯科”
時給もいいし、
週三回でも大丈夫だし、資格なくても出来 るし、なんたって今住んでる家から近い!!
もう、 ここにするしかない!!
バイトをしなければならないと焦っていた こともあり、
すぐに電話をかけた。
?プルルルルル?
『はい、バイバイ歯科です。』
『あの私田原美嘉と申しますが、アルバイ ト情報誌を読んでご連絡いたしました。』
『アルバイトをご希望ですね?では、明日 の 5 時にこちらに来ていただけますか?』
『あっ、大丈夫です。』
『では、明日お待ちしておりますね。失礼 します。』
明日の5時。 さっそく面接だ。
頑張って受からなきゃ!! 生活のために、ね…。 次の日、
授業を終えてさっさと家に帰りスーツに着
替えた
バイトとはいえ、 一応正装しなきゃね…。
4時…
家から出ようとした時、かばんから着信音 が聞こえる。
バイブにしとくの忘れてた!! 電話かけてくれた人サンキュー?
電話をかけてくれたお陰で携帯がバイブに なっていないことが判明。
面接中とかに着信音が鳴ったらそれこそお しまいだ…。
電話の相手に感謝しながら画面を見る。 着信:優
『はぁ~い?』
り気味
『お、今日は元気やな?今から部室来れへ ん?????ちゃん来とるで』
????に会いたい…。 だけどバイトが、
生活がぁ…。
『ごめん、これからバイトの面接なのだ…』
『バイト?どこ?』
『駅近くにあるバイバイ歯科ってわかる? そこなんだけどぉ!!』
『聞いたことあるわ。でもあんまりいい噂 聞かへんで!』
噂なんてあてにならないよね