なに赤くして。アホ…」
優は両手で 美嘉の耳を包んだ。
しかし優の手も氷のように冷たくて…
長い時間 探していてくれたんだね
優は花壇に置いてある花やお菓子を見てい る。
赤ちゃんへのお供えだと気付いたのか、 美嘉を花壇の前まで抱き上げて運んだ。
「お参りせぇ」 感覚のない手を合わせてお参りする。 その横で一緒になって手を合わせる優。
頭の中では ????の言葉だけが繰り返されている。
お参りを終えると 再び抱き上げられ、 そのまま車まで運ばれた
優の着ていたニットの上着を肩にかけら れ、
車は動く。
優は何も聞いて来ない。 美嘉が雪の上で一時間座っていたことも
毎年クリスマスにお参りに行っていたこと も…。
音楽もかけずに静まった車内で、 二人が言葉を交わすことはなかった。
車は家を通り過ぎ どこかへ向かって走る。
しばらくして着いた場所は二人が始まった 海だ。
優はエンジンをつけたまま砂浜に車を停め た。
「外やと寒いから車の中で話そう。な?」 寒さで震える声で
美嘉は答える。
「……うん」
車の中にいるのに、 波の音が聞こえてくる。
いつもはゆっくりで癒される波の音も、 今日は激しくて怖い音。
「お互い伝えることがあったら海に来よう って約束したやん。」
前… 海に来た時約束したね。
“何かあったら 海に来て話そう”って。
指切りげんまん したよね。
「はりせんぼん飲みたいんか?」 美嘉が首を大きく横に振ると
優は髪を優しく撫でた。
「ええ子や。ゆっくりでええから話せる な?」
シートベルトを強く握りしめ ゆっくりと口を開いた。
「美嘉ね、毎年クリスマスに赤ちゃんのお 参り行ってたの…」
「なんとなく…気付いてたで」
「それでね、去年偶然元彼に会ったの」
「…うん」
「その時ね、ちょっと迷っちゃったの。優 か元彼か…でも美嘉はやっぱり優が好きだ から優と一緒にいたいって思った」
「…そうやったんか」
「それでね、今年もお参り行ったの。そし たら元彼の友達がいたんだ」
「友達?」
「その友達は今美嘉が新しい恋してるなら 聞かないほうがいいって言ったんだ。でも 美嘉は聞いておかないとずっと気になると 思って…だから聞いたの」
「理由は何やったん?」
「元彼…癌なんだって。だからお参り来れな いんだって…」
優からの返事がなくなったので 続けて話す。
「美嘉と別れた時にはもう癌だって気付い てたんだって…」
優はしばらく沈黙を続けそしてゆっくり話 し始めた。
「俺が前、美嘉に元彼どんなやつだった ん?って聞いたの覚えとる?」
「うん、覚えてる。」
「そん時美嘉が元彼を悪く言って、俺が“今 の言い方やとそこも好きやったって言い方
やな”って言ったのは覚えとる?」
「覚えてるよ……」
「もう一回聞くで。元彼どんな男だった ん?」
唇を噛み締めながら ゆっくり答えた。
「……短気で嘘つきでどうしようもない 男…」
この言葉を聞いて 優が何を感じ取ったのかはわからない。
優はフフッと笑い、 ドアを開け 外に出てしまった。
ドアが開いた一瞬車内に流れ込んで来た外 の空気は、
雪と潮の香りが混ざり合い美嘉の心のよう に複雑だった。
車を降り、 走って優の腕にぎゅっとしがみつく。
しがみつかないと優がどこかへ消えてしま う…
そんな気がしたから。
優はそんな美嘉をいつものような優しい笑 顔で見つめ、
手を握った。
「一回会いに行きぃ」
「…え?」
「元彼に一回会ってそれから考えたらええ よ。俺待っとるから。時間かかっても待っ とるから…」
優はこの時どんな気持ちだったのかな。 本当は
どこにも行くなって…
離れるなって言いたかったんじゃない の??
お参りに行く前、 優に手首を掴まれて引き止められた時…
あの時離れなかったら何か変わっていたか な。
今頃家で二人でケーキでも食べながらイチ ャイチャしてたかな…。
遠くから来た車のライトが二人を照らした 時、
優の目から流れる一粒の雫を見た。
美嘉はすぐに目をそらし視線を地面へとず らして下を向く。
溶けて流れ出た雪かもしれない…。
優はヒロに一回会えって言うけど、 それでいいの?? それが本当の気持ち?
ねぇ、優…。 クリスマスから三日が経ち、
美嘉は????に電話をかけた。
【一回会いに行きぃ。それから考えてええ から】
優の言葉… 素直に受け止める。
逃げてばかりじゃ、 ダメだよね。
今すぐ行動しなきゃ 前に進めなくなってしまいそうだから…。
?????????
『もしもし』
『?????美嘉…』
『来ると思ってた。ってか遅ぇよ!』
『ごめん…』
『彼氏は大丈夫か?』
『うん、会いに行きなって言ってくれた。』
『そっか。俺が勝手に教えていいのかわか んねーけど…東病院の 302 号室にいっか ら。』
『わかった。ありがとう…』
????の言ったことを 近くにあった紙にメモする。
そして電話を切り、 メモを強く握りしめた。
「病院でええんやろ?車出したるわ」 メモを覗き込みながら言う優。
「いや、いいよ。歩くから大丈夫…」
「いや、出す。嫌って言われても出すわ!」
優はなんでこんな時にまで こんなにやさしくしてくれるんだろう。
本当は辛いよね。 不安だよね…。
病院の住所を伝え、 そして車は病院へと到着した。
「優、行ってくるね。」
「頑張れな。俺ここでずっと待っとるか ら!」
笑顔を作る優。 今は優のやさしさに心が痛いよ。
普通出来ない。
好きな人を元彼に会わせるために送り迎え するなんて、
普通は出来ない。
車を降り、 病院へ向かった。
立ち尽くす。
ここに、 ヒロがいるんだよね…。
美嘉今からヒロに会うんだよね。 実感わかない。
勇気を出して中に入り、階段を駆け上がる。
1 階…2 階…3 階…
302 号室の前。 この病室の中に
ヒロがいるんだ。
ドアの前で深呼吸をし、ドアノブに手をか ける。
…ヒロに会うのが怖い。
ヒロが言おうとしてたことを聞こうともし ないで
自分だけが傷ついたのだと思い込んでい た。
ヒロが病気と闘っている時、 美嘉は新しい生活を始めて新しい恋して…
今さら会う資格あるのかな?? その時、
思い出したのは優の言葉
【ずっと待っとるから】
病院の入口で
トントン
汗をかいた手のひらを握りしめ、 ノックをする。
…返事がない。 寝てるのかな?? もう一回…
トントン やはり返事はない。
さらに深く深呼吸をし、そおっとドアを開 けてみた。
「失礼しまぁす…」 小さい個室の真ん中にある一つのベット。
そこに寝ているのは…
ヒロ?? 最後に会った卒業式の日とは全然違う。
やつれたように痩せてしまっている。
相変わらず帽子をかぶっていて、 細い体が吐息で微かに揺れていた。
「ヒロ…」
ほっぺに手をあてる。
「こんなに、こんなに痩せちゃって…」 ヒロが寝返りをうった瞬間に、
かぶっていた帽子が少しずれた。
髪の毛が… ない。
だからずっと 帽子かぶってたんだ。
クリスマスに会った時も卒業式も…
“帽子が俺のマイブームだ”って言ってた じゃん
やっぱり嘘つき…。
耐えられなくなり、
病室を出て待合室のイスに座ってうつむい ていた
「美嘉ちゃん」 誰かに肩を叩かれ
顔を上げる。
「??さん…」 ヒロのお姉さんの??さんだ。
「????から聞いたよ。よく来てくれたね!」
「はい…」
「病気のこと言えなくてごめんね」
今頭に浮かぶのは、 さっき見たヒロの姿だけ…。
「あたしは病気のこと美嘉ちゃんに言いな って何回も言ったんだけど、でもあいつは いつかいなくなるかもしれない自分より、 他の男と幸せになってもらいたいって」
「はい…」
「あいつね、いつも病室のドアが開く時嬉 しそうな顔すんの。美嘉ちゃんに言ってな いんだから来るはずないのに…いつか来る こと期待してんの。バカだよね!」
うん…バカだよ。 本当にバカだよ
バカすぎるよ…。
もし????から病気のこと聞かなかったら、 ずっと知らないままだったんだよ??
ヒロが病気と闘ってるなんて… ずっと知らないままだったんだよ??
いつかヒロのこと忘れて他の人と結婚し て…
それなのに美嘉を待ってたなんて、 ヒロは本当にバカだよ。
「あいつ今でも美嘉ちゃんの事想ってる よ…」
??さんの言葉に 唇を噛みしめながら返事をした。
「美嘉には今、すごく大切な人がいます。 その人が下で待っててくれて…だからヒロ に会っていいのかわからないです…」
??さんは特別驚い様子でもなく、
それはまるで美嘉が新しい恋をしているこ とを知っているかのようだった
「とりあえず顔だけでも見てやって?」
「…わかりました」
「じゃあ弘樹起こしてくんね!」
??さんはそう言い残し 病室へと入っていった。
心なしか足が少し震えている。
すぐに病室のドアが開き
??さんがドアの隙間から顔を覗かせ手招き した。
美嘉は勢いよく立ち上がり、 再び病室へ向かう。
病室へ入ると、
さっきまで寝ていたはずのヒロが体を起こ して、
目を見開きながらこっちを見た。
「美嘉…?」 優から貰った指輪が見えないよう
左手を後ろに回しているずるい自分。
「…来ちゃった!!」
懐かしい声。 懐かしい香り。
高校時代がよみがえる。楽しかった日々が よみがえる。
卒業式からまだ 9 か月しか経ってないのに、 なんだかずっと前から会っていないよう な…。
ヒロは痩せてしまって付き合ってた頃の面 影は少