ししかない。
だけど…
あの頃好きだった気持ちが戻ってしまいそ うな気がして、
怖くなった。
「なんで俺がここの病院にいるってわかっ たんだ?」
「勘だよ。女の子って勘がいいんだよっ!!」
動揺を隠すため 明るい声で答える美嘉。
ヒロは微笑んだ。 そう、
あの頃と変わらない笑顔で…。
「あたし花瓶の水変えてくるから~」 ??さんは気をきかせたのか
理由をつけて病室から出て行ってしまっ た。
二人きりの空間。
「元気だったか?」
「うん。元気…!!」
「そっか。それなら良かったな!」
「ヒロ…なんで内緒にしてたの??」
唐突に質問すると ヒロの動きは一瞬止まり
そしてまた何事もなかったように話し続け た。
「なんにも内緒にしてねーよ!」
「だって病気のこと…」
「うるせー!もういいから。忘れろ」
ヒロ、 本当は全部知ってるんだ
美嘉を一人にさせないために別れたこと も…
心配かけたくなかったから、 だから病気のこと言えなかったんだよね。
美嘉を傷つけようとしてたのも、
自分を忘れさせるためにわざとひどいこと ばかりしたんでしょ??
美嘉が病室に来るの、 ずっとずっと待ってたんでしょ…??
全部聞いたんだよ。 涙が出ちゃいそうだよ…
でも、 今1番泣きたいのはきっとヒロだから。
だから泣かないの。
隠していた左手を もとの場所に戻した。 何で隠したんだろう。 最低だよ…
ヒロはすぐ指輪に気付いたみたいだ。
「元気そうだな。それに幸せそうでなによ りだ」
そう言って 寂しそうに笑った。
この笑顔 前にも見たことある。
一回目は 校門の前で美嘉と優が仲良くしてた時。
二回目は 卒業式の日にペアリングを返した時。
もし…
もし別れる前に病気のことを話してくれて たら、川原でヒロの背中を見送ったりはし なかった。
どんな手を使ったとしても、 絶対に追い掛けて引き止めていたよ。
寂しがりやの美嘉だからいつかいなくなる 自分じゃ幸せに出来ないって…
好きだから一緒に乗り越えていくんじゃな いの?
好きだからずっとそばにいて欲しいんじゃ ないの??
もう、 遅いんだよ…。
美嘉にはもうヒロ以外に大切な人がいる の…。
「ごめんまたね…」 走って病室を出た時
廊下で??さんとぶつかった。
「帰っちゃうの?」
「??さん、ヒロの病名は…何ですか??」 冷静に言う??さんの口から出た答え。
「…悪性リンパ腫だよ」
答えを聞いて 美嘉は何も答えずに走り出した。
「美嘉ちゃんまた来て。またあいつに会い に来てね!」
後ろから聞こえる??さんの叫び声に返答し ないまま、
階段を駆け降りた。
ヒロの変わり果てた姿は衝撃的だった。 でも、
笑顔も優しさもそのまま
あの頃のまま…。
でも、 もうあの頃とは違うんだよ…。
とぼとぼと歩きながら、優が待つ車へと向 かう。
「美嘉、おかえり!」 優は車の外で待っていてくれたみたいだ。
落ち着かなかったのか、地面にはタバコの 吸い殻が大量に落ちている。
「優…ただいま。」
優は美嘉の頭の後ろに手を回し自分の体へ 抱き寄せた。
「ゆっくりでええから考えてな。どっちを 選んでも俺は絶対にせめたりせんから…」
優がくれた指輪に彫られた文字。
“pledge” 誓い。 誓約。
クリスマスの日に言ってくれたよね。
【俺は何があっても美嘉のことが好きって 言う誓いや】
第二十章 ピース
年が明け、 学校が始まった。
インターネットでヒロが今闘っている悪性 リンパ腫について調べてみる。
《悪性リンパ腫》 白血球中のリンパ球が癌化した悪性腫瘍。 発症年間 10000 人前後。
年齢は関係無し。 固形癌より良好な治療成績。
完全に完治することが出来る確率 50~80
%。
悪性リンパ腫に侵された人で、 助かった人もたくさんいる。
助かった人が たくさんいる。
ほんの少しだけ 安心した。
それから あまり学校へ行かなくなってしまった。
なんか、 行く気になれない…。
ヒロのこと、 忘れたはずだったのに。
卒業してから 会わなくなって…
ヒロに新しい彼女が出来た時、 やっと諦める決心が出来たの。
でもね、 今ヒロが美嘉と別れた理由を聞いて
ヒロの本当の気持ちを知って 今心は
揺れ動いているんだ。
……最低。 都合のいい女。
こんな自分 大嫌い。
美嘉は 恋していいのかな。
こんな自分が誰かを好きになっていい の??
優を選んだ決意は固かったはずなのに こんなにも簡単に
揺らぐなんて…。
………ヒロ。
悩んでるのは、
ヒロが病気だから?
癌だって わかったから?
……違う。 そうじゃない。
病気だから同情してるとか… そんなんじゃない。
ヒロに裏切られた事。 傷つけられた事。
いろんな事を思い出して別れてからずっと 無理矢理諦めをつけてきた。
でもそれが美嘉のためを想う嘘だと知って ヒロが変わってなかった事を知って 好きだった頃の気持ちが戻って来てる。
だって 大好きだったんだもん。
ずっとずっと 大好きだったんだもん。
本当は 別れたくなかったよ。
離れるわけないと思ってた。 一生隣にいてくれると
思ってた。
だから別れてから… すごくすごく辛かった。
だけどね… ずっとずっと想っていたんだよ。 ずっとずっと好きだった
忘れられなかったの。
あの人に… 優に出会うまでは。
………優。
優はどんな美嘉でも 受け止めてくれる。
元彼に未練あっても、 過去を聞いても… それでも好きでいてくれたよね。
優の笑顔には たくさん助けられたよ。
優の言葉に たくさん助けられたよ。
優がいたから 乗り越えられた問題がいっぱいある。
家族も友達も過去も。
いつも元気で やさしくて前向きで…
温かい手で包んでくれる 魔法の手を持っている。
この人となら ずっとずっと一緒に歩んで行ける。
これからも手を繋いで一緒に歩んで行け る。
そう思っていたよ。
あの人に… ????に
真実を聞くまでは。
今も優の家で 一緒に暮らしている。
ゆっくり考えろって言ってくれた優。
美嘉が迷ってるのを知っているんだ。 でもあえて
俺のとこに来いとは言わない。
きっと美嘉を 追い詰めないため…。
優はそんな人。
いつまでもこんなにダラダラしてられない よね。
早く答えを出さなきゃ。
━2 月 4 日。 朝起きたら
優はもう居なかった。
大学へ行ってしまったのかな。
冬休みが終わってから 一度も大学には行ってない。
二月後半にはテストがあるから、 それだけ行けばいいや。
この日行こうと決めてる場所がある。
メイクをし、 何枚も重ね着をして家を出た。
引越しした時に優から貰った合い鍵で 鍵をかける。
「よしっ!!」 一人で気合いをいれて
駅まで歩き始めた。
それが優のやさしさ。
列車を乗り継ぎ、 着いた場所は…優と始まった海。
いつも車で来てたから気付かなかったけど 意外に遠いんだ。
冬の海に誰もいるはずなく静まり返ってい る。
夏だと砂浜であるところに今は雪が積もっ ていて
持ってきた新聞紙をひき腰をおろした。 目を閉じて、
波の音に耳を澄ませる。
…????????????
波の音って不思議。 心情によって聞こえ方が変わるから。
気持ちが落ち着いている時や嬉しい時には ゆっくり優しい音。
不安な時や悩んでいる時は激しくて悲しい 音。
今日の波は いつもより激しくて悲しい音に聞こえる。
波は必ず行っては 戻って来る。
海で、 いろんなことがあった。
ここで優と始まって、 かすみ草をプレゼントしてくれたっけ。
卒業式にも来た。
お互い伝えることがあれば海に来ようって 指切りげんまんしたよね。
お互いの夢を 語り合って…
今でも優は素敵な保育士になれると思って る。
キャンプ行った時も、 海でたくさん遊んだ。
優が買ってくれた浮輪つけて くるくる回されたなぁ。
??と仲直りするきっかけを作ってくれて、 砂浜で一つになって
二人で朝日見たよね。
…あの日見た朝日は 一生忘れない。
クリスマス。 お参りの帰り海に来た。
ヒロが病気であることを話した。 優は笑って会いに行けって言ってくれて…
優の目から 流れる雫を見たよ。
……優の本音は?? いろいろなことを
思い返していた。
雪を掻き分け下にうもれている砂を取り出
そうと試みたが 雪が深すぎて砂が見つからなかった。
立ち上がり 波の音と広い水平線を目に焼き付けて
再び駅へと歩き始めた。
そしてまたいくつもの列車を乗り継ぎ… 駅を降りて歩く。
懐かしい街並み。 懐かしい空気。 切なくなる風景。
海で雪を掻き分けた時の指先がまだ痛い。
手をポケットに入れたけどなかなか温まる 気配はない。
途中コンビニで温かいココアを買ったけれ ど、
すぐに冷たくなってしまった。
??からもらった緑色のマフラーのおかげで 首元が少しはポカポカしている。
まだ誰も踏んだ形跡のない坂道を、 滑らないよう注意しながら降りる。
次に着いた場所は、
…ヒロと別れてしまった 川原だ。
雪の上にひいた新聞紙に座り、
川の音に耳を澄ませる。 ??????…
凍ってしまっているのか 流れる音が聞こえたり聞こえなかったり。
川の音って不思議。
音が聞こえると安心出来るのに、 聞こえなくなると不安になったりする。