果てしなくて、 綺麗な砂が一面に広がっていて…
優しい音を出しながら必ず戻ってくる波を 持っている海が好きでした。
でも小さくて、 すぐに不安にさせて…
一度流れたら 二度と戻って来ない川。
あたたかい時期に 川原に咲く花。
たった一輪だとしても… 枯れそうだとしても…
それでも美嘉は その花のほうが 大切だったみたいです。
枯れたら 美嘉の涙で元気にしてあげたいのです。
病院に向かって 走った。
決めたあの人に 会うために。
病院に着いた時服も髪もびしょびしょで、 看護士や患者さんの視線が痛かった。
でも今は そんなことよりも…。
階段を駆け上がり、
ヒロのいる 302 号室へ向かう。
302 号室の前。 ここを開けたら、
後戻りは出来ない。
いいんだ。 美嘉は
ヒロを選んだの。
ずっとそばにいて支えてくれた人を傷つけ てまでヒロを選んだから。
「…失礼します!!」 ノックをせずに
強くドアを開ける。
……誰もいない。
布団は開いたままで、 花瓶には色とりどりの花が飾られたまま。
「どこにいるんだろ…」 ひとり言を呟き
病室のイスに腰をかけた
何も考えずただ勢いだけで来てしまったせ いか、
なんだか拍子抜け…。
改めて落ち着いて考えると、 胸が痛いよ。
優を傷つけてしまった。 裏切ってしまった。
ずっと守って くれてたのに。
指輪… pledge… 誓い…
落としてしまいました。拾えませんでした。
懲りずに優のことを考えて心を痛めていた その時
病室のドアが開いた。
「美嘉ちゃん!来てくれたんだね!」
「そんなに濡れてどうしたの!?今タオル 貸すから!」
??さんは心配そうな顔で棚の中から取り出 したタオルを投げた。
「あ、ありがとうございます…ヒロは??」
「弘樹は今検査中だよ!もうすぐ戻って来 るからジュースでも飲んで待ってな!」
??さんは嬉しそうに冷蔵庫からジュースを 取り出し、
コップについでいる。
タオルで顔と髪を拭こうとした時、 手に持っていたある物に気が付いた。
優が頭にかけてくれた 上着。
…そのまま持って来ちゃった。
自分も雨に濡れたくないはずなのに、 美嘉にかけてくれた。
唇を噛み締めながら上着を小さくたたみ ひざの上に置いた。
「????から聞いて来てくれたんでしょ?」 コーラの入ったコップを差し出しながら
??さんが問い掛ける。
コップを受け取りながら噛み締めてた唇を 戻して答えた。
「あっ、??さん…」
「?????なんのことですか??」
「あれ?????から電話来なかった?だから 来てくれたのかと思ってたよ」
確かに????から何回か 着信があったけど…。
悩んでる途中だったから電話に出なかった んだ。
「…????がどうしたんですか??」
「弘樹が美嘉ちゃんにどうしても話したい ことがあるって言ってたの。それで????に 頼んだんだ。美嘉ちゃんを病院に連れて来 いって。だから来てくれたのかと思った!」
ヒロが美嘉に話…? 話って何??
頭の中では 悪い妄想ばかりが 駆け巡る。
もし… もしヒロにまた突き放されたとしても、 絶対に諦めない。
選んだ道を引き返すようなことはしない。 何があっても
離れたりはしない。 追い掛けるんだ。
しばらくイスに座って待っていると、 病室の外で看護士の声が聞こえた。
立ち上がり、
優の上着をイスの上にそっと置きヒロを待 つ。
ドアがゆっくり開き、 ヒロが顔を覗かせた。
美嘉の姿を見つけたヒロは、
驚きと喜びを足して2で割ったような表情 を見せた。
「よぅ美嘉。久しぶり…でもねーか!」
「うん……」 ヒロは看護士に介助されながら、
ベッドに座る。
看護士は病室から出て行き、 病室の中は美嘉とヒロと??さんの三人。
「美嘉ちゃんに話あるんでしょ?」 何かを期待した様子の
??さん。
美嘉も話があるんだ。 今すぐヒロに
話したいことがあるの。
「おめぇーは出てけ!」
??さんに向かって 強気な口調のヒロ。
「はいはいはーい?」
??さんは何か言いたげな表情で 病室から出て行った。
その表情は喜びが隠せないような… そんなふうにも見えた。
病室の窓から見える 一本の太い木。
その木についている葉っぱが激しく揺れ、 風が強いことを表している。
ヒロはベッドの横についてる手すりに捕ま りながら立ち上がろうとしているので、 ヒロのもとへ駆け寄り肩を貸した。
ヒロは美嘉の肩を掴みながら立ち上がり、 そのまま体をぐいっと抱き寄せる。
「最近寝てばっかりであんまり体使ってね ぇから…マジだせぇな」
「あはは…しょうがないよ!!」 笑顔が引きつる。 こんな状況なのに…
抱きしめられてドキドキしているんだ。
病室の窓から少しもれている空気がヒュー ヒューと鳴った時…
「美嘉ね…」
「話が…」
二人は同時に口を開き 言葉が重なった。
「…ヒロから言っていいよ!!」
「俺大したことじゃねぇから先に言え!」
目を合わせて笑う二人。
「も~、卒業式の時と一緒じゃん!!」
「だな。じゃあ今回は俺から言うわ!」
ヒロは抱きしめる手の力を強めた。
「俺、今美嘉に彼氏がいんの知ってっけど… でも好きなんだよ。もう絶対離したりしね ぇよ。俺のところに戻って来い」
大したことないとか言って… 相変わらず嘘つき。
ヒロの体に 手を回す。
あの頃とは違って腰回りが細くなって… 回した手が
余るくらい。
「……バカ。遅いよ…」
ヒロの胸に顔を押し付け涙をこらえている と、
ヒロは体をゆっくり離し優しくキスをし た。
「もう離さねぇから…」
美嘉は…
美嘉はずっとこう言われるのを待ってたの かもしれない。
好きだから…
好きな人に幸せになってもらいたいから離 れる。
それも嬉しい。
だけど、 好きだからこそ離さないで欲しかった。
好きだから相手を幸せに出来なくても 一緒にいたい。
離れたくない。 離れるなって
言われたかったんだ。
ずっとずっと 言われたかったんだ…。
「…俺、ずっと美嘉を抱きしめたかった」
「…うん」
美嘉が優と校門の前で話してた時と、 卒業式に話した時。
ヒロ寂しい顔で 笑ったよね。
あの時本当はね、 ヒロが何かを伝えたがってるの
気付いていたのかもしれない。
でもね、
知らないフリしたの。
知るのが 怖かったんだ。
あの時美嘉は新しい道を歩き始めてたか ら、
お互い別々の道を歩んで行くのが 正解だと思ってた。
ヒロとこの先一緒に歩んでいくのは、 とても辛いこのなのかもしれない。
優を選んでいれば、
何も考えずに楽しく過ごせたのかもしれな い。
でもね、 ヒロの悲しみや不安を
一緒に背負っていきたいと思ったの。
支えになってあげたい。
大事な人を傷つけてまで選んだ恋。 何があっても
離したりしない。
諦めたりしないからね。 絶対…。
この日久しぶりに 実家に帰った。
今までずっと 優の家にいたから…。
実家に帰るのは 何ヶ月ぶりだろう。
「ただいま~!!」
久しぶりに帰ったので、お母さんは驚いた 様子。
「あら?美嘉が家に帰って来るの久しぶり だね!メール返事くれないし。元気にして た?」
「ん…明日から実家に戻って来るから。」
「優君となんかあったの…?」
何も答えなかった。 お母さんもそれ以上何も聞いてこなく、
会話を聞いていたお父さんも何も聞いては 来なかった。
せっかく家の負担減らすために一人暮らし 始めたのに、
こんなんじゃダメだね。
またバイト探して新しい家を探さなきゃ。
美嘉の部屋はない。 引っ越す時に、 いらないって言った。
行く場所がなくお姉ちゃんの部屋に入る。
「あれ?おかえり!」
あっけらかんとした態度に心が洗われたり もする
「お姉ちゃんやっほー」 ベッドの上に
腰を降ろした。
「彼氏となんかあったの?」
「…えっ、なんで??」
「指輪してないから!」
「別れちゃったぁ…」
「そっかー…」
「しかも元彼と戻っちゃったぁ」 机にひじをつきながら
お姉ちゃんは語る。
「人生いろいろあるよ。平凡な人生なんて つまらないでしょ!後悔するかしないかな んて、誰にもわからないし。進みたい道に 進む、それでいいと思う!」
その言葉の意味を 深く考えていた。
今日雨の中で優に会った時
ヒロを選んだ自分に少し腹が立ったりもし た。
どうしてこんなに想ってくれる人を 離してしまうんだろう。
また傷つくかもしれないのに、
どうして自ら辛い道を選んだんだろうっ て…
…そう思った。
自分を攻めた。
でも今は自分の出した答えに自信持つこと が出来るよ。
後悔するかしないかなんて誰にもわからな い。
進みたい道に進む。 美嘉は
進みたい道に進んだ。
だから間違ってないよ。
お姉ちゃんの部屋に 布団をひいて寝た。
美嘉にとって眠り薬だった優の手のぬくも りは
もう無い。
これからもずっと…
寝返りをうっても 隣に優はいないんだ。
聞こえる吐息は 優のじゃないんだ。
それもいつか 慣れてくのかな。
美嘉は ヒロと共に生きていく。 ヒロと共に生きていく。
結局全然寝れず、 朝早く優にメールを送った。
《今日の午前 10 時に部屋の荷物を取りに 行くね》
服も化粧品も大学の教科書も… なにもかも優の部屋にある。
だから取りに行かなきゃいけない。
昨日優が頭にかけてくれた上着も返さなく ちゃ。
きっと会うのは嫌だろうから、 あえてメールを送ることにした。
取りに行く時間がわかれば その時間に家を出るだろうと思ったから。