バカだからすぐに忘れてしまいそうだし…。
右手には????と???と?????が一生懸命折っ てくれた色とりどりの折り鶴。
左手には黒と白の毛糸。
大好きな友達がそばにいて支えてくれてい るという安心感。
そしてこれから毛糸で帽子を編み、
帽子をヒロにあげる日のことを考えていた ら自然に顔がほころんでいた。
友達の大切さに改めて気付き、
満足げな笑みを浮かべながら病院へ向かっ た。
トントン 返事がないのでドアを開けると、
病室内は静まっている。
スースーと響くヒロの小さい寝息。
「寝てるのかぁ…」 肩をガックリ落とし、
ヒロを起こさないように紙袋から 100 羽の 折り鶴取り出してベッドの横に吊り下げ た。
寝息をたてながら微かに揺れている体。
揺れている体が生きていることを証明して いる。
ヒロのかぶっている茶色いニットの帽子 は、
毎日かぶっているせいか少しほつれてしま っている。
「冬までに頑張って帽子編むからね!!楽し みにしててね!!」
指でほっぺをツンツンと突く。
「…う~ん」
ヒロは唸りながらゴロンと寝返りをうって
窓の方を向いてしまった。
もしかして今日美嘉がバイトないの知って るから昼間に病院に来ると思って待ちくた びれて寝ちゃったのかな??
ベッドの横にはみかんキャラメルのゴミが たくさん散らばっている。
みかんキャラメルを食べると美嘉から元気 が貰える気がするって言ってたから、 今日は元気なかったのかなぁ??
目覚めてベッドの横にある折り鶴見つけた らきっと驚くよね。
その時、
寝ているヒロを無理矢理起こしてしまいた いくらい無性に愛しくなってしまった。
かばんに入っていたノートを破き 置き手紙を書く。
【気持ち良さそうに寝てるから今日は帰る ね。今日は来るの遅くなっちゃってごめん ね!!明日また来るねっ☆p.s.鶴は美嘉の友達 がヒロが早く元気になれるように作ってく れたの!!】
置き手紙を折り鶴と一緒にベッドの横に置 き
おでこに軽いキスをして病室を出た。
それから編み棒を買い、冬に向けて帽子を 編み始めた。
この帽子が完成する頃にはヒロが元気にな って退院していることを祈って
一編み一編みに願いを込める。
今年の夏も去年と同様、あまり出掛けたり しなかったなぁ。
でも外でするバイトが多かったから、 ほんのり小麦色の肌になっている。
いつの間にか大好きだったはずの夏も終わ り、
落ち葉がカサカサと地面を舞っている。
…秋。 トンボが空を飛び、
青々していた木々もほんのりオレンジ色に 染まり…
オレンジ色に染まった木々が夕日と重な り、
絵葉書のような綺麗で切なくなってしまう 風景を毎日のように見ることが出来る。
まだ夏が終わったばかりなのに、
吹き抜ける風はなぜか少しだけ冬を思わせ る匂いで…
その風は無情にも止まらずにどんどん流れ て行く時間が、
冬になるのを急かしているようにさえ思え た。
帽子が 3 分の1ほど完成した 9 月中旬。 ヒロに三日間の外泊許可が出た。
一日目と二日目はゆっくり家族と家で過ご してもらい、
三日目は一緒に過ごす時間を作ってもらう ことが出来た。
朝早くから作った手作り弁当を持ち、
期待に満ちた顔で走ってヒロの家へ向か う。
今日は待ちに待った ヒロの外泊。
今日は三日ある外泊の
最後の日。
昨日とおとついは家でゆっくり出来たかな ぁ?
お母さんの手作り料理たくさん食べたかな ぁ??
具合悪くなってないかなぁ。
……心配。
ヒロと病院以外で会えるのは高校以来だ。 それがとても嬉しくて昨日は眠れなかった
んだ。
ヒロも久しぶりに家に帰れたから、 嬉しいだろうな!!
ずっと… 病室にいたもん。
毎日毎日…
病室の薄暗いライトばっかり見てたもん ね。
???????
ドアの向こうからドタドタと走って来る音 が聞こえる。
そしてゆっくり ドアが開いた。
そこには 元気なヒロの姿。
「外泊おめでとう??」
「おぅ、ありがとな!」
ヒロの私服姿を見るのはかなり久しぶりだ ぁ。
病院ではいつも パジャマだったから…。
ヒロは癌だとは思えないほど元気で、
それはそれはこのまま退院してもいいんじ ゃないかってくらい。
このまま退院出来たら
…どれだけ嬉しいだろうな。
「おじゃましま~す?」
靴を脱いで玄関に上がろうとするが、 ヒロは上着を羽織りながら美嘉を止める。
「今日は行きてぇ場所があっから、付き合 ってもらうわ!」
美嘉は片足だけを玄関に上げたまま、
靴を履こうとするヒロの上着を掴んで必要 以上に大袈裟な声で叫んだ。
「家で安静にしてないとだめっ!!」 頭に手を乗せて
微笑むヒロ。
…余裕の笑みだ。
「どうしても行きてぇんだよ」
「でもぉ…」
「俺強いから心配すんなって!」
ヒロは美嘉の返事を聞こうとしないまま、 強引に玄関の外へと引っ張った。
連れて行かれたのは 自転車置き場。
この黒い自転車… 高校の時によく二人で乗ってたよね。
美嘉の特等席だった。
ヒロに持ち上げられ、 後ろに乗る。
「乗れ。飛ばすからしっかりつかまってろ よ!」
初めてこの自転車に乗った時と同じセリ フ。
変わらない優しさ。
ヒロの背中に…
あの頃よりも細くなってしまった背中にし がみついた。
冷たい風。
でもヒロの体温が寒さを消し去ってくれ る。
ぎこちない自転車の音が 時間を過去へと引き戻そうとしていた。
「ねーねーどこ行くの~??」
風の音と周りの雑音に負けないくらいの 大声で問う。
「~…った~…」 問いへの答えは、
ちょうど通り掛かかった工事現場のショベ ルカーの音によって
消されてしまった。
「え!?聞こえなかった!!もう一回!!」
「だから~俺らが出会った場所!」
出会った場所… それは学校。
これから 学校に行くのかなぁ??
ささいな疑問を頭の中で駆け巡らせつつ、 自転車は予想通り学校の駐輪場へと到着し
た。
ヒロが差し出してくれた手を掴み、 自転車から降りる。
その手を繋いだまま、 学校の玄関へと 歩き始めた。
「大丈夫かな??怒られないかな??」
「怒られたらそん時はそん時だ!」
美嘉の心配をよそに、
ヒロは落ち着いた様子で玄関のドアを開け る。
鍵はどうやら 開いているみたい。
体育館では 部活動をやっているからだろう。
あの頃と 変わらない校舎。
古臭いような懐かしい香りが…
いろんな想いを次々と よみがえらせる。
この校舎で三年間過ごし
いろいろな経験をしたおかげで今の自分が いる。
そして今もこの校舎で大人になっている人 がたくさんいて、
それがこれからも繰り返し繰り返し続いて いくのかと思うと
…不思議な感じだ。
靴下のままそーっと忍び足で廊下を歩く。 ギシギシ鳴る廊下。
小さな物音にびくびくしながらも階段を上 がり
辿り着いた場所は図書室の前だ。
図書室に行こうって言い合ったわけではな い。
二人の足はいつの間にかここに向かってい たんだ
まるで何かに 導かれるかのように…。
「いっせーので…で二人で開けよっか??」
「だな。いっせーのーで…」
?????? うるさいドアの音は
校舎の古さを 意味している。
あの頃と変わってない。
メッセージなのかもしれないね。
図書室は本の独特な香りがして、
窓の外から見えるグラウンドは静寂してい て
寂しく砂ボコリが舞っていた。
「約三年振りかなぁ~??懐かしいね!!」 はしゃぎながら図書室を走り回る美嘉の姿
を
ヒロは優しい目で 見つめていた。
その時偶然目に入ったのは太陽に反射して ピカッと光った黒板。
そこに白いチョークで書かれた小さい文 字。
【君は幸せでしたか?】
【とても幸せでした。】
薄くなっている。 でも確かに残っている。
図書室の黒板はあまり使う機会がないか ら、
ただ消し忘れているだけかもしれない。
でもね 三年の時を経て…
今こうして二人のもとに届いたよ。
これは長い間離ればなれになっていた二人 への
このメッセージは三年間の間で、
どれだけの出会いや別れを見て来たのか な??
唯一二人を繋いでいた指輪を返した卒業 式、
もう繋がりはなくなってしまったと思って いた。
だけど… こんなところでも
繋がっていたんだ。
ヒロもこのメッセージが今もまだ残ってい ることにきっと気付いている。
だけどお互いがそれについて触れることは ない。
なんとなく… 触れることが出来ない。
すれ違っていても 二人の気持ちは 繋がってたんだ。
?????? ??????
突然鳴るチャイムの音に思い出そうとして いた記憶達が
一瞬にして消えてしまった。
ヒロはまるで何かきっかけを待っていたか のように、
チャイムが鳴り終わったと同時に口を開い た。
「ここでいろいろあったよな」
寂しいようにも悲しいようにも見えるヒロ の横顔から
目が離せない…。
窓の外をまっすぐ見つめるヒロの横顔をじ っと見つめながら答えた。
「いろいろあったね…」
「ここで俺が美嘉に告ったんだよなー」
「うん!!」
「喧嘩したこともあったよな!」
遠い目で窓の外を見つめるヒロがどこかに 消えてしまいそうで…
腕を強く掴んだ。
ヒロは遠くを見つめたまま話し続ける。
「ここで一つになったよな。それで…」
“それで赤ちゃん 出来たよね”
ヒロはその言葉を 飲み込んだ。
しんみりとした雰囲気をどうにか変えよう と
明るく振る舞う。
「…次赤ちゃん出来たら頑張って産もう ね!!」
ヒロは何も答えてはくれず、 優しく微笑みながらの髪をそっと撫でた。
最近、
美嘉の質問をはぐらかして答えてくれない ことが多いよね。
「そうだな」 って一言だけでも言ってくれたら
安心出来るのに…。
心の奥に生まれる不安は増すばかり。 掴んでいた腕を離しヒロに強く抱き付いた
「ヒ