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恋空 佚名 4533 字 4个月前

まだ早いよ。 まだ行かないで。

ヒロは寂しげな顔で微笑み…

震えた声で話し始めた。

「俺は先に行かなきゃならない。美嘉はゆ っくり来い。おめぇが遅くて辿り着くのに 何 10 年経っても俺はこの先で待ってるか ら。川原で別れた時とは違う。いつかまた 会える。俺はいつでも美嘉を見守ってるか ら。それだけは絶対忘れんな」

ヒロは一瞬近付き、 二人は握手を交わした。

その手は相変わらず大きくて温かくて… 離れたくない。

でも離さなきゃ。 離れなきゃ いけないんだね…。

手を握ったままその場に座り込んだ。 涙がぽろぽろと滴る。

「泣き虫~ちび美嘉!」 本当は自分だって離れたくないくせに

寂しいくせに 最後まで憎まれ口叩いて…。

「美嘉…またな!」 別れの言葉と同時に手は解かれ、

ヒロは長くて果てしない道のりを歩き始め た。

赤ちゃんを抱き 右手を挙げ 何度も振り返りながら…

振り返らなかったあの頃とは違う。

大好きだったあの笑顔で何度も何度も…。

繋いだ手を 離さないことも出来た。

でもね、 最後に見たヒロと赤ちゃんの笑顔…

なぜか輝いてたの。 幸せそうに見えた気がしたの。

だから… ??????

不快な目覚ましの音で 目が覚めた。

涙でビショビショに濡れている枕。 嫌な夢見たなぁ…。

でも夢で良かった。

そう思ってるわりに胸が痛いのはなんでだ ろう。

不安が頭をよぎりながらも、

まるでそれを無理矢理掻き消そうとするか のようにお見舞いに行く準備を始めた。

編みかけの帽子。 今日帰って来たら絶対完成させよう。

変な夢を見たせいもあって…… 今すぐ病院に行きたい。

ヒロの笑顔を見れば この不安な気持ちも無くなるよね…。

「行って来まぁーす」 軽くメイクをし、

寝癖のまま家を出た。

9時 45 分。 写真が現像できるのは

10 時。

少し早いけど、 一応行ってみるか。

「いらっしゃいませ~」

「あ、昨日現像をお願いした田原ですけ ど…」

「田原様ですね。現像出来てますよ。」

分厚い写真。 早く中を見たい… でも我慢、我慢。

二人の 2 ショット以外 何撮ったんだろう。

早くヒロと見たいなぁ。ヒロすごく楽しみ にしてたもんね。

病院へ向かう途中コンビニに寄り、 みかんキャラメルを購入した。

ヒロに元気をあげなきゃ!!

???????????

コンビニを出ようとした時、

ポケットで携帯電話が振動した。

着信:??さん ??さんから電話。

めずらしいな…。

『もしもし??』

『美嘉ちゃん弘樹が…』 ????

?????????

??さんの言葉を最後まで聞かずに電話を切 る。

聞きたくない。

弘樹が…何?? ヒロがどうしたの??

“ヒロが飲み物買って来てだって!!” とかだったのかもね。

早く病院に行かなきゃ。

現像されたばかりの写真とみかんキャラメ ルを握りしめ、

病院へ向かった。

1 階…2 階… 階段を上るたび

胸が苦しくなるのはなぜだろう。

病室に近付くたび ヒロに会うのが怖いのはなぜだろう。

昨日はあんなに会いたかったのに

……なんで??

今はね、 あまり会いたくない…。

???? 冷静なフリをして

ノックをする。

本当は胸がはち切れんばかりに 緊張しているくせに。

いつものようなヒロからの返事はない。

「ヒロ…?」 ドアを開けると

泣き崩れているたくさんの人達。

ドア近くに立っていた??さんが美嘉に近寄 り、

呟いた。

「弘樹今朝方に突然…」 ??さんの言葉が耳から耳へと通り過ぎる。

泣き叫ぶ声も… 風で揺れる窓の音さえも聞こえない。

ベッドで寝ているヒロのもとへと近付い た。

目を閉じて 眠っているヒロ。

昨日と変わらないよ。 なんでみんな泣いてるの??

その時

手に持っていた現像したばかりの写真が床 に散らばった。

散らばった写真に目もくれず ヒロの肩を揺する。

「ヒロ?もうすぐ昼だよ!起きないと…」 いくら揺すっても

ヒロは起きない。

「具合悪いの?今から美嘉が元気あげる よ!!」

買ったばかりのみかんキャラメルを箱から 一粒取り出し、 唇に挟んでヒロの唇へと運んだ。

一瞬二人の唇が触れ… その瞬間が好きだった。

冷たい唇。

…どうして??

「みかんキャラメル食べないと元気出ない よ!」

唇に置いたまま… 動かない。

「……ヒロ?食べたら美嘉から元気もらえ るんでしょ?早く食べて元気になってよ

っ!!」

唇で温かさを感じ 耳で鼓動を感じる。

触れる唇の温もりは 生きている証。

体で響く鼓動は 生きている証。

今は何一つ 感じることが出来ない。

「ヒロ強いもんね。喧嘩負けたことないも んね!!そうだよね?ヒロ…」

美嘉の問いに ヒロが答えてくれることはなかった。

偶然視界にはいった 床に散らばった写真。

写真を拾い 一枚一枚を手に取った。

カメラを買った日に 撮った写真。

ヒロが突然美嘉にカメラ向けて撮ったんだ っけ。

プチ結婚式をした時に????が撮った写真。

【この先何があっても】【大好き!!】 二人とも照れくさそうな顔してるよ。

昨日撮った写真。 突然だったから 笑顔になれなかった。

「世界一最高の笑顔にしろよ!」 ヒロそう言ってたよね。

ヒロ… 世界一の最高の笑顔で笑ってるね。 幸せそうな顔してる。

この写真見て、

“この時も楽しかったけど今はもっと幸せ だね”

って二人で言うんじゃなかったの??

言おうねって 約束したじゃん。

昨日まで写真現像するの楽しみにしてたじ ゃん。

おいしそうにみかんキャラメル食べてたじ ゃん。

「またな!」 そう言って笑顔で手振って別れたよね??

………なんで突然。

これは夢だよ。 夢だよ。 夢だよね…??

床に散らばった たくさんの写真。

撮った覚えのない たくさんの写真。

一枚ずつ手に取り、 じっくりと眺めた。

写真に うつっていたのは…

美嘉の姿。 美嘉の顔。

お見舞いに来て、 疲れて寝てしまった時の寝顔。

病室の窓から撮った 帰って行く後ろ姿。

花瓶の水を 代えている姿。

下を向きながら

みかんキャラメルの袋をはずしているとこ ろ。

全部… 全部美嘉ばかり…。

ねぇ、 ヒロはずっと

美嘉を見守ってくれてたんだね。

カメラごしからも… 見守っててくれたんだ。

この写真でね、

ヒロがどれだけ想っていてくれたのかわか るよ。

バレないように フラッシュつけないで撮ったのかな??

薄暗い写真もあるし…

急いで撮ったのかな?? ブレてる写真もあるし…

窓から撮ったやつなんて反射しちゃってる し。

なんで美嘉ばっかり 撮ってるの??

本当 バカなんだから…。

写真を全て拾い集めると

再びヒロが寝ているベッドへと駆け寄っ た。

窓から差し込む陽射しが当たっているヒロ の顔。

陽射しが当たっている部分だけは温かい。 ヒロの手を布団からそっと出し、

指を絡めてぎゅっと握った。

握り返してくれることはもうない。 昨日まではあんなに温かかったのに…

今日はとても冷たいんだね。

いつもこの手を握ると、握り返してくれた。 この手で頭を撫でてくれたんだ。

ヒロの顔、

今にも起きて笑いかけてくれそうなんだ よ?

なんで動かないの?

ヒロの手を握りながら 涙を流した。

この涙はヒロには届くのかな。

美嘉ね、 今泣いてるよ。

いつもみたいに意地悪な顔で

「泣き虫~!」って言ってよ。

いつもみたいに子供のような笑顔で

「そこも好き」って言って抱きしめてよ。

「お前みたいな泣き虫で甘えん坊な女は俺 としか付き合えねぇ」って。

「俺強いから病気上等」って… どんなに憎まれ口聞いてもいいから

わがまま言っても弱音吐いてもいいから…

もう一度 美嘉って呼んで。

低くて優しい声で 美嘉って呼んで。

お願い。 お願いヒロ。

美嘉って呼んで? 呼んでよ…。

ねぇ、神様。 私はあなたを 一生恨むでしょう。

どうして。 どうしてヒロを 連れて行くんですか。

早すぎます…。

ヒロが突然逝ってしまった理由を 詳しくは知らない。

知っても、 ヒロが戻って来るわけじゃないから。

早期発見なら 助かっていたかもしれないんだって。

でもね、 発見されたときはもうほぼ手遅れで…

ここまで生きていたのが奇跡だって、 誰かが言ってた。

気付くのがちょっと 遅かったんだね。

ヒロもヒロの家族も、 ヒロが長く生きられないことを 本当は知っていた。

美嘉も……

ヒロが長く生きられないことは、 なんとなくわかっていたんだ。

でもね、 それでも良かったの。

奇跡が… 奇跡がね、

起こるかもしれないって思ってたんだよ…。

二人でなら、 奇跡は起こるかもって…

桜井弘樹 享年 20 才

2005 年 10 月 17 日 あなたは遠くへ

行ってしまった。

遠い遠い届かない場所へ行ってしまったん だ…。

その日 お通夜が行われた。

ただただヒロの青白い顔をじっと見つめ 繋がるはずもないヒロの携帯電話に

何度も電話をかけた。

まだ信じられないの。 心がついて行かないの。

だってつい昨日まで普通に話してたんだ よ??

突然会えなくなるなんて信じられるわけな いよ。

何が起こってるのか 実感出来ずにいる。

なんとなく… なんとなく気付き始めてるけど、 わざと気付かないようにしているんだ。

ずっと寝ないで ヒロのそばにいた。

ヒロがもしかしたら、 目を覚ますかもしれないから………。

日が明けて、 今日は告別式だ。

たくさんの花の中、 ヒロの写真が 笑っている。

「かわいそう